引っ越し当日

サク

いよいよこの日が来てしまった。

今日の引っ越しが終われば、彼女はこの地を離れてしまう。

同じ日本とは言えど、そうやすやすと行き来できる距離ではない。

朝から落ち着かない。

いつもなら、LINEでやりとりしながら仕事するのだが、彼女も引っ越しで精いっぱいで、会話もままならない。

引っ越しが無事に終わる気持ちと、行ってほしくない気持ちが交錯する。

今晩この地での最後の約束をした。
最後の最後まで会おうと。
宿泊先ホテル近くに行く。
それまでに必死に仕事を片付けた。

3カ月の思い出が、ずっと頭の中でリフレインし続けていた。
ほんとうにあっという間だと感じていた。
楽しいことしか考えていなかったから、楽しい思いでしかない。

自分とうりふたつの女性が現れる。

もう会う時にはお互いが虜になっていた。

限られた時間を思いっきり楽しんだ。

こんなに楽しい日々は人生で初めてだった。

彼女の、手、髪の毛、身体、全てが愛おしくて堪らなかった。

明日からは触れることが出来なくなる。

別れるわけではないが、触れられない喪失感に怯えていた。

仕事を終えてホテルに向かった。

ホテルの外で、知り合いと会うという設定で会うことにしていた。

当たり障りのない手土産を途中で買い、ホテル近くの下見に行った。

出来るだけ近くで、ホテルの部屋から見えない場所が分からなかったからだ。

ホテル近くを通りすがると、入り口付近に、いくつかの人影が見えた。

彼女の家族一行だった。

丁度のタイミングで自分の車が横切る。

彼女らを直視できなかったが、彼女は気づくだろう。

彼女はとある家庭の主婦だ。旦那さんと子供と彼女。そこには家族がしっかりあった。

彼女ら家族を傷つけたくなかった。

お子さん達もだが、旦那さんも傷つけたくなかった。

彼女が愛する全てを自分も愛したかった。

本当は車を停めて挨拶の一つでも交わしたかったくらいだった。

彼女らは夕食の時間らしいので、自分も近くで夕食を済ませ、ホテルの近くで待機した。

彼女から「今から行く」とLINEが入った。
いよいよ最後の時間だ。

彼女が迷わぬよう車を降りて出迎えた。
直ぐに車に乗り込み抱き合ってキスした。

お互いにお互いの感触を記憶させようと考えていた。
こんな時でも気持ちが揃う。

互いに愛おしんで、抱き合い感触を確かめあった。

もう涙は出ない。。。

離れていても、強く繋がれる何かを探そうと昨日決めたからだ。

様々な偶然が重なって、奇跡的にツインレイと出会った。悲しみより感謝しかない。

明日朝、彼女はこの地から旅立つ。

それは終わりではなく、これからの長い長い人生の始まりだと思った。

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